この夏のこと

この夏、アルゼンチンとポルトガルとフランスで指揮することになっていたのですが、正式にその全てがキャンセルとなりました。この状況では致し方ないとはいえ、こんなに世界各国の音楽祭から呼んで頂ける夏は初めてだったので本当に残念。この悔しさをポジティブなエネルギーに変えて、出来る精一杯のことをやります。

同様に、夏に日本で指揮する予定だったコンサートも全てキャンセルや延期。昨年から福井で実施している日本海フェスティヴァルオーケストラの夏公演は、スペインのマドリード・フェスティヴァルオーケストラとのコラボレーションを得て、より面白いプログラムになるよう計画していたのですが、やはりこれも今年は見送らざるを得ません。

考えてみれば、春から夏まで、ずっとキャンセルや延期の連絡ばかりと向き合い、仲間や友人、スタッフの皆さんと共に、諸々の返信や後処理をし続ける日でした。それはなかなかに苦しいもので、キャンセル自体は仕方がないと理解しているとはいえ、「次を企画しても出来るのだろうか」とか、「結局直前にまたキャンセルせざるを得ないのではないか」と考えてしまうことが一番辛かったように思います。つまり、ひとつの後処理をしながら、次を新しく作る気力を同時にじわじわと奪われていくようなもので、これをポジティブに切り返していくことは一筋縄でいくものではありません。

なにより、「舞台」が無いということが非常に辛い日々でした。それは自分にとっては生き甲斐であり、この高揚のために日常の全てを紐づけているようなものですから、急にぷちんと糸が切れたような想いになることも度々でした。しかし、様々な形で応援してくださる方々や強力な友人仲間たちに恵まれ、立ち上がるエネルギーを失わずにいられ続けています。この場を借りて深く御礼申し上げる次第です。

ともあれ、ずっと海外を回っているはずだった夏の予定がぽっかりと空いて、久しぶりにゆったりとした時間が生まれました。公演再開に向けての仕組みづくりに尽力するとともに、自分のコンディションを整えたり大きな変化を伴うものに挑戦するための時間を頂いたと捉えて、この時間をめいっぱい使いたいと思っています。

ひとつこの期間に見出したことを書き添えておけば、それは、「もっと読まなければならない」ということでした。もともと小学生の頃から毎日一冊は何かを読む日々を続けていましたが、この数年は目の前に迫るコンサートの楽譜を読むことに必死で、そのほかのものを読むペースが鈍くなっていたように思います。「書けない」ときには、「書けない」のではなく「読んでいない」のだ。100冊読んでようやく少し何かが書けるのだ、という、偉大なる師・立花隆先生に頂いた箴言を改めて刻んだ次第です。

幸いにして大学で講義(今はオンラインですが)したり若い学生さん向けにレクチャーさせて頂くことが多いので、その度ごとに自分に対して、「果たして自分は彼・彼女たちぐらいの年齢の頃から成長しているのか?」という問いを向け続けることになります。あの頃から自分はどれだけ遠くに行けたのか?どれだけ読み、書き、学び、演じてきたか?足りなければ得る必要があるし、得たと思ったものが本質的でなければ削ぐ必要があるでしょう。

とにかくも大切なのは、ラディカルに変化することを恐れない柔軟な心。梅雨も明けたようです。この夏は、これまでとは違った形でたくさんの挑戦をします。

舞台への道のり(筆者撮影)

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