一人の男が人生を音楽に捧げるとき:ヘルマン・シェルヘンの肖像

カリンニコフの一番を勉強するうちに、巷に出回っているこの曲の録音はおそらく大体聞いたように思う。中でも飛び抜けて素晴らしいと思ったのがヘルマン・シェルヘンの録音だ。シェルヘンは何となく「奇抜な」解釈という印象や先入観を持っていて、カリンニコフ以外の録音についても自分から聞くことはあまり多くない指揮者だった。そして、このカリンニコフの録音を聞いて、そんなふうに思っていた自らの不明を強く恥じた。なんと明瞭で緻密な演奏だろうか!

ラロ、ボードレール、ヘルダーリン

もう長い付き合いになるチェロの友人が卒業試験で弾くラロのコンチェルト。試験前に一度聞いてほしいということで合わせに一緒させて頂いたのだけれど、最後の通しで僕は圧倒された。はじめてオーケストラで会ったころに自信無さげにソロパートを弾いていた彼女はもういない。自分の世界を一生懸命に創り出してそこに入り込もうとする、ある種の迫力を備えたチェリストがいた。しかし同時に、音楽に対して真っ直ぐに向き合おうとする姿勢は昔と変わっていなかった。