これが、それだ!

福井大学フィルハーモニー管弦楽団第69回定期演奏会、無事に開催することができました。感染症対策のため終演後にホワイエに出ることができず、ご来場いただきました皆様やOBOGのみんなに挨拶もできませんでしたが、この情勢のなかで沢山の方々にお運びいただきましたこと、深く感謝申し上げます。

7年目の共演。開演直前のリハーサルの最後に、学生たちにどうしても伝えたくて、少し長い話をしました。

「皆さん、よくここまでやってきました。最後の最後まで中止の可能性があったし、途中で諦めることは簡単だったと思います。執行部の学生さんたちの苦労は途方もなかったはずです。でもみんな、オーケストラを続ける意味を信じて、何とかここまで頑張ってきました。この一代の定期演奏会であると同時に、福井大学フィルという歴史を背負った、何世代もの連合オーケストラが今ここにあります。


承知の通り、オミクロンの広がりによって、私たちは再び危機的な状況に面しています。このコロナという悪魔は、本当に、人間たちの繋がりを断絶するのです。集うこと、ともに同じものを囲むこと、ふれること。手に手を重ねること。 コロナは、人間たちを「熱」から切り離し、人と人が重なることを断ち切った。だが我々はそれに抵抗しなければいけない。


私は、コロナはある意味では、「人間が人間である意味っていったい何ですか」という、人類の進化が突きつけた全世界的な問いだと思っています。感染リスクを回避するなら、誰とも触れ合わず、全部機械にしちゃえばいいじゃないかという挑発に対して、あなたたち人間はどのように対抗できますか?という<問い>。集まると危険なのがわかっているのに、それでも君たちは集まって音楽や食事や会話をしたいんですか、という問いなのです。


私は思います。人間には創意工夫ができる。そして創意工夫と熱量を重ねて集うことでしか生まれない何ものかが確かにある。人間一人がもっているエネルギーは限られているかもしれないが、それが重なることによってとんでもないエネルギーを生むことができる。単純な足し算ではない、乗数的なエネルギーを生むことがある。 オーケストラというのはそういう営みの極地ではないでしょうか。年齢も性別も出身も経験年数も異なる人間たちが同じ場に集い、人間同士のエネルギーを重ねて、ひとつの作品に注ぎ込む。どこまでも人間的な営みです。



だから私は皆さんに今日こう言いたいのです。コロナが、「人間とはいったい何か」という問いであるならば、私たちは今日ここで奏でる音楽をもって、「これが人間だ!」と応えましょう。機械で置き換えられるような、マシーンみたいな演奏には何の興味もありません。練習を再現したり、かつての録音を再生したような演奏をするならここに立つ意味はありません。いまここでしかありえないものを生み出したい。賭けなければいけない。この場にこれほどのリスクを冒しながら、人間が集って熱を注いでいる意味をめいっぱい出し切らなければいけない。


われわれは弱くて、コロナに感染するかもしれません。ときに仲違いするかもしれない。恋に落ち恋に敗れるかもしれない。ミスもきっとたくさんすることでしょう。しかしそれもふくめて人間なのです。 人間が集まってやることでしか生まれない何かを、音楽に託してここに生み出しましょう。みなさんが活動できなかった二年の苦しみを込めて、今日このメンバーとともにこの曲を演奏するのが最後になるという万感の思いを込めて、君たちのすべてをここに賭けてください。


本番の舞台、それは魔法の空間です。ここに辿り着けて本当によかった。ここに立てば、一つの作品のために皆が全身全霊を尽くすしかない。そしてそのとき音楽は、違う世界の扉を開くことができる。いまこの瞬間だけは、日常のことをすべて忘れて、音楽に身を捧げましょう。楽器をはじめたばかりの一年生であれ、卒団を間際にした大学院生であれ、楽器を手にして本番の舞台に立っている君たちはいま、そういう奇跡的な世界の「作り手」なのです。


ミスを恐れず、ここで、この仲間たちと演奏できる奇跡を楽しんで。めいっぱい人間的な、今ここにしかない音楽をしましょう。「人間が人間である意味は何なんだ」という問いに対して、わたしたちは今日この演奏をもって、「これが、それだ!」と応えましょう! 




運営も演奏も、学生たちは本当に良く頑張りました。山田耕筰「序曲」は緊張をはらみながらも次第に音が開いてきたし、大澤愛衣子さんとのブルッフのヴァイオリン協奏曲は、生きる幸せを音で描いたような時間でした。

ドヴォルザークの第8番(福井大学フィルとは2016年にも演奏した思い出の曲でした)は皆の熱量が凄まじく、熱気が渦巻いて、私もいままで出来たことのないような演奏になりました。まさしく、ここにしかない音楽が鳴っていたと思います。なにより学生たちの満ち足りた表情といったら!!

何度書いても足りないぐらい、今回の演奏会が実現できてよかった。何代にもわたる団員たちが「復活」のために全力を注ぎました。いわゆる大学オケの指揮者としての役割を大きく越えて、私もこの2年間あれこれと裏で動いてきましたが、あの日あの瞬間にすべて報われた気がしました。いったい、どれほどの量のメールのやり取りをし、どれほどの時間電話したでしょうか。

そこまで自分がすべきことなのかも悩みましたが、これまで一緒してきた学生たちの顔が浮かび、ここで立て直すのも自分の責務と思って歯を食いしばってやってきました。でも、終演後の学生たちの笑顔と涙を見ていて、ああ、やってよかったな、と心底思えました。学生たち、心からおめでとう。実現してくれてありがとう。君たちが成し遂げたことは、自分たちで思っているより遥かに大きなことなんだよ。

大好きな福井、そして福井大学フィル。福井の学生オーケストラの灯はこれからも続いていきます。今回の「復活」に関わってくださった全ての方々に心から御礼申し上げます。次回の第70回定期演奏会も同団を指揮することになっておりますので、これからもぜひ福井大学フィルを応援いただけますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です