何年もかけて関係者のみなさんが開催に苦闘されたこの音楽祭。海外からの来日は叶わずビデオ出演という形になりますが、予定通り開催いたします。私は後半でベートーヴェンの「運命」を指揮します。
まだ過去形にすべきでもないのですが、本当に困難の連続でした。コロナのため、ずっと練習してきた「第九」を諦めざるをえなくなり、急遽「運命」に変更。急ピッチかつ少ない回数で練習を組んだところ、2月の地震。緊急事態宣言は延長され、東京での練習も直前一回のみにカット。さらに先日、福島-相馬での最後のリハーサルの直前にもまた大きな地震。子どもたちをもうこれ以上苦しめないでくれ!と何度心の中で叫んだかわかりません。
そのせいでしょうか、いまの私には、「運命」の最初のモチーフが、乗り越えようのない困難に聞こえて仕方ありません。立ち上がろうとしても何度も襲ってくるもの。未来へ向けて走り出そうとしても覆いかぶさってくるもの。なにかそこに残酷なほど強烈なエネルギーを感じてしまって、この楽譜を開くことすら辛く感じる時期がありました。今でも、ある種の決意をしなければこの楽譜を開くことができません。4楽章に至って、最後には運命すら味方につけて人間の意志が勝つ。そのためには、自分にそれだけのエネルギーが蓄積されていなければ、この音楽には太刀打ちできないのです。
本当は「第九」をやる予定だったこの演奏会。私はこの「運命」の演奏のなかで、「第九」への予兆を鳴らしたいと思います。問いと否定(3楽章)、過去を振り返るノスタルジー(4楽章)という形で、ベートーヴェンは既にそれをやっていると思うから。
絶対にあきらめない。人間にはそれができる。そういう演奏をしたい。そして、いま、このメンバー・この演奏会でしかできない「運命」をやりたい。会場でお聞き頂くこともできますし、オンライン配信もあります。(チケット入手方法や詳細はこちらになります。)どうぞご覧頂けましたら幸いです。