東京芸術劇場の「ウインド・オーケストラ・アカデミー」キャリアアップゼミのキュレーターに就任してから、私なりの授業や講義をプロデュースしています。今回はプログラムノートの執筆講座と、「音楽と世界史」講座!この両者はバラバラなものではなく、繋がっているのです。
まずは夕方から私がプログラムノートの執筆講座。受講生から提出頂いたプログラムノート(400字)をライブ添削しながら、立花隆先生の助手時代に教わった文章の秘技を伝えていきます。読みやすくするには、伝えるためにはどうすればいいか。文章のリズムを生むために、印象に残すために..。あるいは編集や校正で基本となる注意点、語尾のヴァリエーション。ときには音楽の内容に踏み込んだファクトチェックも加えるなど、盛りだくさんの時間となりました。
しかし文章をブラッシュアップすることはできても、内容のクオリティはまた別の次元の話。そもそもなぜ受講生の皆さん(音楽大学を卒業されたばかりの管楽器奏者たちです)は個性的なプログラムノートが書けないのか?それは歴史と人を知らないからで、もっと我々はその作曲家が生きた時代を知り、その作曲家についての伝記や書簡を読まねばならない、というのが第1回目の結論です。
だからこそ!!その日の夜には、世界史教諭の吉川牧人先生をお迎えして「音楽と世界史」講座の第1回「18世紀の世界と音楽」講座を開催!最初に私が、イントロダクションとして東京大学の入試問題史上屈指の名作、2004年度の問1.「16世紀から18世紀の銀の流れと世界経済の一体化について」を紹介しました。これを書くためには、指定語句をきちんと説明できることは勿論ながら、それが単なる一問一答的知識にとどまらず、それぞれが有機的に結びつき、各時代を一つの切り口(ここでは「銀」)から説明できる力が求められます。
これが解けるようになるべきだと言いたいのではありません。音楽のプログラムノートを書くためには、ある意味では本問題を解く際と同じ発想が求められているのではないか、と言いたいのです。そのうえで楽式やアナリーゼなど音楽の専門的知識を乗せていく必要があります。音楽の専門的知識は音楽大学を卒業された皆さんならある一定のレベルにあるはずなので、それ以外の部分をこの機会に学んでいこう、というのが開催の主旨です。(それゆえに、いつかは東京大学の学生がフーガを書き、音楽大学の学生が東大の世界史の問題に挑戦するような機会を、あるいは両者が同時にそれぞれの領域を学び、教え合うような機会を作りたいと思っています。これぞまさに「学藝饗宴」、ものすごく濃密な場になるでしょう。)
吉川先生からは、産業革命と啓蒙思想の話を中心に、ヘンデル、パーセル、モーツァルトとの関係を、映像をふんだんに使った構成でお話し頂きました。ヘンデルは時代を把握した敏腕プロデューサー!蒸気機関とトランペットのバルブの関係…など、飽きさせない構成、巧みな映像挿入に釘付けになりました。産業革命とジンの流行の話も面白かったですね。生活、空間と時間の感覚が一変するこの時代を知ることは、必ずや音楽の理解にも繋がってくるでしょう。なによりも作曲家(にとどまらず「人」)は、やはり時代が生み、時代が育てていくものです。だから、時代を知らずして人・文化・作品の理解をすることはほぼ不可能に近いことだと思います。
3時間の集中授業のあと、「こういう授業を音楽大学時代に受けてみたかった!」と受講生の皆さんが話されているのをみて大変嬉しい気持ちがしました。私にとっても良い学びの機会になりましたし、もっともっと勉強しなければと背筋が伸びる思いでした。大変に刺激的な時間を作って下さった吉川先生、ありがとうございます!
第2回は、私の世界史の師匠である川西勝美先生をお招きして19世紀以降をお話し頂きます。浪人時代の恩師と一緒に東京芸術劇場で仕事ができるなんて!楽しみでなりません。