UUU2014冬の終わりに

UUUオーケストラ2014冬に参加した際の「報告書」に寄稿した文章を掲載致します。現在僕はUUUオーケストラの指揮から離れておりますが、3期・4期と指揮させて頂いて、誇張抜きに人生が変わるような経験をさせて頂きました。この文章が今後のUUUオーケストラに参加を考えている人の背中を少しでも勇気づけるものになれば…。これからもUUUオーケストラのさらなる発展を心より応援しています。


UUU2014に参加された皆様、お疲れさまでした。指揮者という立場から見たUUUについてということで、いくつか書かせて頂きたいと思います。今回指揮者をさせて頂くにあたり、昨年のUUUに参加された方からお話を伺ったこと、そして代表の野口さんの真っ直ぐな熱意に共感したところがきっかけとなりました。とはいえ、当初は不安な点だらけだったというのが正直なところです。集まったばかりのオーケストラが海外まで遠征してコンサートを開催するというのが途方も無く大変なことであるのは容易に想像することが出来ますし、また、音楽教育を受ける立場であるべき我々が「子供たちの音楽教育」という極めて責任の重い行為を担うことなど出来るのか、ということもずっと気になっていました。

こうした不安と疑問は、フィリピンでの日々を過ごすうちにゆっくりと溶けていきました。Tent Cityでの演奏会のあと頂いた「今日がこの避難所に来てから一番幸せな日だった」という言葉。「演奏を聴いて、「諦めてしまっていた『オーケストラに入りたい』という夢をもう一度追いかけてみようと思った」というCNUで頂いた手紙。「指揮でどうしてこんなに音が変わるの?不思議でたまらない。僕は指揮者になりたい」と話しかけてくれた子供の真っ直ぐな眼差し。 一つ一つの演奏会を終えてホテルの部屋に戻るたび、ああ、たとえ僅かなりとも心を動かすきっかけを作ることが出来たのだと、静かな安堵に満たされました。

そしてまた、演奏会のあとの心地良い疲れを抱えながら、翌日の演奏会に向けて夜遅くまで一緒に更なる練習と研究を重ね、語るうちに、皆さんが同じ方向を向いて音楽の渦を生成しはじめたように思えたことも嬉しい事でした。オーケストラには色々な人がいて、楽譜の中に全く同じ音は一つもないように、同じ楽器を奏でていても同じ人は一人もいません。奏者の数だけの経験年数や思いがあるもので、それを無理に一つの方向に整えようとしても上手くいくものではありません。粘り強く大らかに構えて、自然と揃ってくる時を、大きな流れを呼び込まなければいけない。 指揮者という立場で僕が最も大切にしたいと考えていることの一つはまさにこうしたところにあるのですが、それはまるで海をつくるような営みであり、フィリピン滞在中に何度も海を訪れるたび、目指すべき地点を確認するような思いがしていました。そして最後には、同じステージを共有する者への尊敬と信頼が宿った「オーケストラ」が出来上がったと確信しています。

ここに至るまでには苦しい日々を経験したことも事実です。  きっと奏者の皆さんもそれぞれに悩み、苦しんだことと思います。 ですが改めて思うのは、音楽の溢れ出すような楽しみとはそういう厳しい過程を経てしか生まれようのないものだということです。沢山の苦しみと厳しい時間を経験した後に回帰する、はじめて楽器を手にしたときのような音楽の楽しさといったら!奏者の皆さんが素敵な表情で演奏して下さっていた様子が、聞いて下さった子供たちの弾けるような笑顔と満席のお客さまがスタンディング・オベーションを下さった光景が、帰国してしばらく経つ今もなお頭から離れず、夢の中でしばしば蘇ってきます。楽器を奏でることが出来る喜びを、人が人と共に人に向けて演奏するということの素晴らしさを、フィリピンでの日々で強く強く実感しました。

昨年の合宿ではじめて皆さんと冒頭の和音を出した瞬間から半年。最終日に響いたサウンド・オブ・ミュージックメドレーを僕は一生忘れないでしょう。 欲しいところで目が合って笑い、音楽の中でたくさんのコミュニケーションを取り合うというアンサンブルの楽しみに満ち、音の一つ一つを心から慈むように弾いて下さっていた光景が目に焼き付いています。疑いも無く、僕がいままで指揮させて頂いて来たコンサートで最高に幸せな瞬間の一つでした。最後まで指揮について来て下さって本当にありがとう。またいつの日か、皆さんとステージを共にできることを楽しみにしています。

2014年3月31日
指揮 木許裕介

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「運命」のあとに。