相馬の子どもたちに Vol.3 One for all, all for one!

「いいオーケストラ」ってなんだ?僕の考えでは、それは一人一人にアンテナがビシバシ立っていて、見えない線が細かく張り巡らされている「チーム」のことだ。

僕は中学時代に野球部だったから、つい野球にたとえたくなる。日本各地の四番バッターを集めてきてその日限りの打線を組んでも勝てるとは限らない。みんなホームランだけを狙い始めたら、チームじゃなくて単なるホームラン競争だ。あるいは、誰がそのボールを取るんだ?とか、誰が送りバントをするんだ?みたいになってガタガタになってしまうかもしれない。

オーケストラは、アンサンブルは、ひとつのチームなのだ。みんなに役割がある。メロディを弾いているとき、伴奏はきちんとそれを支えてやる必要がある。いつも目立とうとするばかりではうまくいかない。ときに裏方に回り、ときに目立ち、音楽が求めるものに応じて自分の役割を果たして、全体に貢献することが大切だ。もし君がソロを弾くならば、その他の全員は君を支えるためにベストを尽くすだろう。これこそ、One for all, All for one(ひとりは全てのために、すべては一人のために)という言葉の正体だ。オーケストラとは何か、ということを言い表すのにこれ以上に適切なフレーズは無いかもしれない。

One for all, All for one.そのためには、特定の人だけが上手くなればいいというものではない。ステージに立つチームである以上、みんながある程度の水準を超えていく必要がある。そのためには、教えあい、フォローし、支え合うという「チーム・プレイ」が欠かせない。そしてまた、指揮者と個人だけがつながればいいというものでもない。指揮者と奏者ひとりひとりが繋がりつつ、奏者同士のなかでも無数に見えない線のような絆が出来上がっていることが欠かせない。点(dot)と点を結ぶと線(line)が出来るがごとく、個人という点と他者という点とが何通りにも結ばれ、幾重にもコネクトされたネットワークがあることが大切だ。

たとえばそれは、お互いの名前をちゃんと覚えていることかもしれない。あるいは、一緒に練習する時間をたくさん重ねることかもしれない。「聞いて!」と言われたパートに耳を澄ますこともそうだろう。喧嘩したり、失敗したり、教えあったり、そういったことすら、本番のステージでは一つの思い出としてお互いを結ぶ「線」になる。

そう、ざっくり言ってしまえば、「いいオーケストラ」とはこうした見えない「線」が強く・細かく張り巡らされているチームのことだ。そして、この見えない線を伝ってたくさんの情報量が飛び交い、情報をキャッチし、情報を投げ返すことができるようにアンテナがバリバリ立ったチームのことだ。

アンサンブルはキャッチボール。そこに無数のやりとりがあるからこそ面白い。投げたら投げっぱなしではなく、投げ返す。音楽のなかで我々はそうやって「遊ぶ」ことができる。なんと贅沢な遊びだろう!!

それを司る指揮者は、ガーディアン・オブ・ユニティ。つまり接続の守護神。「プラクティス」と「リハーサル」の違いはまさにここにある。リハーサルで指揮者は、音楽を作っていくだけでなく、音楽を通して、演奏者同士のあいだに線をいっぱい張り巡らせていくようにしているのだ。

この本数を増やしたい。そして密度を濃くしたい。見えない線を見ることができるメガネがあるならば、それを使ってみんなのオーケストラを見た時、「うわっ、めちゃくちゃ線がある!!」と驚かれるようにしたい。

みんなと出会ったその最初のうちにやってみた、輪になって演奏する練習「ラウンド・プラクティス」を今こそ思い出して欲しい。あれは実は、たくさんの線を、たくさんのコミュニケーションを生むための練習だった。いまやみんなは輪にならなくても、音楽のなかで無数のキャッチボールとコミュニケーションが出来るはずだ。みんなと目が合うはずだ。

他の人の音を聞くということ。聞こえてきた音に対して答えるということ。音楽は会話。アンサンブルはキャッチボール。幸せな「遊び」なんだ。

そして、集まることすら難しいこのコロナの時期を過ごしたみんなは、いつまでも忘れないで欲しい。人と人が空間と時間を同じくし、音に音を重ねる。それは当たり前のことではなく、とんでもなく奇跡的な営みなのだということを。

さあ、そろそろステージに立つ時間が近づいてきたね。相馬子どもオーケストラの本気の「遊び」、やってやろうぜ。音を奏でる喜びを客席にめいっぱい届けよう。One for all, All for one!ひとりは全てのために、すべては一人のために!

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