2020年の終わりに -祈りから化身へ

静寂のなかに音の渦を招き入れる。作曲家の遺した楽譜に仕えて祈るその先に、生み出す時間と空間の「化身」となる。

世界でたくさん指揮する予定だったこの一年。殆ど全てが中止になって、膨大な時間を手にすることになりました。苦しいことも少なくありませんでしたが、この期間に大きく進化することが出来たという実感があります。

様々なトレーニングを重ね、音楽の認識においても身体技法においても新しい領域に進むことが出来たと思います。何よりも多くの講演・講義の機会を頂いたおかげで(なんと約20講演も!)ここ数年の考えを纏めることとなり、次の数年に歩いていく方向も見えたように感じています。

この一年の講演講義のうち、主なものをリストアップします。

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・「オブセッション-カルメン、 花の物語-」(東京大学教養学部「学藝饗宴」ゼミナール)
カルメンを「花」に着目して分析し、ジル・ドゥルーズの「アベセデール」と接続する講義。

・「名の残響、そして実存 -ラ・ボエームをめぐって」東京大学教養学部「学藝饗宴」ゼミナール)
ラ・ボエームの人称に着目して分析し、実存が残響する構造を明らかにする講義。

・「前奏曲 和泉式部論」(東京大学教養学部「学藝饗宴」ゼミナール)
和泉式部の月光の一首からコロナ禍における想像力の可能性を広げる講義。

・「つながることと、ひとりでいること -表現者の孤独」(高校生みらいラボ)
過去の表現者たち(作曲家、画家、彫刻家、作家)にとって孤独がどれほど欠かせなかったものであるかを追うことで、分断状況にある学生たちへのエールとする講義。緊急事態宣言下での中・高校生対象の芸術講義として。書籍化予定。

・全4回対談「音楽家が知っておきたいこと(現状・権利・金・広報・舞踏)」(東京芸術劇場ウインド・オーケストラ・アカデミー)
各界専門家との対談。コロナ禍で変容する音楽界を生き延びるための、批判的・建設的提言を含めた連続講義。

・「オーケストラの未来」(Amasia International Philharmonic オンライントークセッション)
オーケストラの可能性や役割、そしてこれからのオーケストラのあり方をめぐって、組織開発や企業人事などとの接続を探る対談。

・「交響的レクチャー ドヴォルザーク交響曲第6番の分析」(全4回/福井大学フィルハーモニー管弦楽団学生指揮者向けのオンライン講義)
コロナ禍で活動自粛となった福井大学フィル向けに、常任指揮者として企画した講義。ドヴォルザーク交響曲第6番の分析を通した、対位法・和声・楽式講義。

・「音楽と社会、そしてエル・システマ」(エルシステマジャパン研修講義)
技術と想像力の関係。欲望の価値。子どもたちに音楽指導するうえで一番大切なことは何か、という教育論。

・「指揮の哲学 -リーダーシップとチームビルディング」(慶應義塾大学SFC)
自身のメインワークといっても良い、ここ数年の思考の集大成。指揮者・オーケストラという営みを社会に変奏する試み。書籍化予定。

・「ベートーヴェン生誕250周年記念 ベートーヴェンのように考え、歌うこと」(森ビルアカデミーヒルズ)
ベートーヴェンのどこが革命的であるのか、いくつかの作品の冒頭を切り口に論じる講義。ラディカルな人間性の称誉として。

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通底するのは、逆境をポジティブに切り返す、そこに人間的なものがある、という思考でした。もっともっと遠くまでいける。そう確信しています。

来年こそ、音に音をたくさん重ねられる一年となりますように。支えて下さった方すべてに心から御礼申し上げます。どうぞ良いお年をお過ごしください。

祈りから化身へ。化身論は、2020年に見出した最大の転回でした。

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