日本ヴィラ=ロボス協会と駐日ブラジル大使館の共催による記念コンサート。めぐろパーシモンホールで満席のスタンディングオベーション(!!)を頂いて終演致しました。一年前に私が「独立200周年と近代芸術週間100周年にあわせて大掛かりなコンサートをやるのはどうだろう?」とブラジル大使館でポロッと話してしまったところから話が進み、ブラジル本国とベルリン、ロンドン、ニューヨークを巻き込んだ大プロジェクトになりました。
言い出しっぺとして資金・運営ともに私が全て持ち出して企画することになり、この半年はずっと本コンサートの仕込みに奔走していました。企画は困難を極めましたが、ブラジル音楽の紹介に人生を賭けた自分の師のことを思ったとき、借金覚悟でもこれはやらなければいけないという確信で走り抜きました。ご支援下さったスポンサー企業の皆様や日頃からご支援頂いている皆様のおかげで何とか実現することができ、深く感謝申し上げます。
楽譜入手のための国際的な交渉、席割りにチケッティングにプログラムノートやMC原稿の執筆まで、自分の持てるもの全てをここに注ぎました。ほぼ毎日のようにブラジル大使館に通ったり電話したり、着信履歴の一覧は「ブラジル大使館」でいっぱいになりました。最初から最後まで粘り強くお付き合いくださったブラジル大使館の小笠原サンドラさん、本当にありがとうございました。コンサート当日の朝4時までチケット周りの仕事をしていたのも今や良い思い出です。
何より、友人知人の温かいサポートに助けて頂きました。アーツイノベータージャパンの浦田拳一くんをはじめ、ひとりひとり名前を挙げれば限りないほど、支えて下さった皆さんの尽力なくしてあの一夜はありませんでした。そしてコンサートマスターの高木和弘さん。このコンサートはどうしても高木さんとご一緒したかった。師匠と出演させてもらった門下コンサートで出会ってから8年ぶりの共演に感無量でした。
実はこのコンサートのプログラムは、ブラジルの「クラシック」音楽の歴史を辿るものになっているだけでなく、ブラジル文化にとって極めて重要な「ポピュラー」を辿る旅にもなるように試みました。クラシックとポピュラーの融合こそがブラジル音楽の魅力だからです。両国国歌、そしてイタリアの影響が強くクラシカルなカルロス・ゴメスの序曲にはじまり、バトゥーキ、フレヴォ、トアーダなど、ブラジル・ポピュラーのルーツにある舞踏や歌を踏まえた作品を演奏しつつ、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ」を挟んでマリオ・ジ・アンドラージに端を発する<融合>の思想を示す。同時に、「祝祭」に強く関係するバトゥーキに焦点を当てて、ネポムセノのバトゥーキとフェルナンデスのバトゥーキで有機的な関連を持たせる。
しかしプログラム本編では、ブラジルの魂といってもよい「ショーロ」を敢えて省きました。ゆえにアンコールには、この曲しかありませんでした。ブラジルで最も有名なショーロである「Tico-Tico no Fubá」。コンサートの最後がバトゥーキ→フレヴォ→ショーロという畳み掛けって、最高だと思いませんか?(笑)
どうしてもこれを演奏したくて、ブラジルの作曲家Sergio Kuhlmannに直接アポを取って編曲してもらいました。さらにブラジルのオケで慣例的に成される、冒頭のアドリブ的な打楽器アンサンブルを書き起こして追加した特別バージョンにしました。本番ではオーケストラの打楽器チームがさらにそこにアドリブを加えてくれて、リハーサルの2倍ぐらいの尺のアドリブになっていて、演奏者一同ニヤニヤが止まりませんでした。
演奏後の満席のスタンディングオベーションを私は一生忘れないでしょう。駐日ブラジル大使をはじめ、各国の大使が興奮と共に駆け寄ってきて下さって、「信じがたいコンサートだった!なんと素晴らしい夜だ!!」と何度も握手を求めてくださったことに心震えました。ホワイエでは、自分がこの2年で書いた楽曲解説が収められているNaxos JapanのCDの数々が売られていたのも感慨深かったです。
音と言葉を往復して自分なりの世界を作り上げる。そこに音楽がある意味を考え抜く。今までの活動の集大成と胸を張って言えるコンサートになりました。あの日・あの場を共にしてくださった全ての人に心から御礼申し上げます。