夜、テラスに出る。中秋の名月のもとで、24日の「いま、夜が明ける!」コンサートのオープニングに選んだデュパルクの「星たちへ」を読む。今回の演奏会の最初にこれ以上相応しい曲はないと確信する。
500曲近くの作品を手がけたデュパルクは、次第に精神と肉体を病み、失明に至り、大部分の作品を自ら捨ててしまうことになる。そのなかでも彼が何度も何度も改稿し続け、存在を消し去らなかった作品がこの夜想詩曲「星たちへ」だ。
ハ長調で描かれる穏やかな闇。そこに恐れはない。星の輝きに導かれ、いつしかゆっくりと夜が白み始める。As-Aという半音の揺れで描かれるのは夜と朝のグラデーションだ。
冒頭がドとソの空虚五度であるのに対して、最後は第二転回系でミの音が乗り、柔らかな響きのなかでハ長調の主和音が奏される。ここにあるのはまさしく午前四時のブルー。星の光が曙光へと移りゆく。たった一音だけでその先にある夜明けの物語を予感させるデュパルクは天才としか言いようがない。
長らく温めていたこの曲を演奏できるのが本当に幸せ。日本での演奏記録は数えられるほどしかないようなので、この機会にぜひお聞き頂ければ幸いです。