イタリア紀行1:イタリア語とボローニャの街について

ボローニャに来て早くも一週間が経ちました。もう一週間なのかという気分と、まだ一週間なのかという気持ちと、両方が混在して不思議な気分ながら、それほど毎日が充実しています。フランスとドイツにしばらく滞在していたことがあるので何とかなるだろうと思っていましたが、想像していた以上にこの街に馴染むことが出来ています。

朝は日が昇ると同時に起き、日本とのやりとり(時差八時間ということで、早起きするとちょうどです)をしたのち語学学校でイタリア語の集中特訓、昼に一度ホテルに帰って復習&譜読みをして、夕方からは歌劇場で勉強させて頂く日々です。夜は夜で、出会った友人たちや歌劇場の方々と夕食を共にさせて頂くことも多く、一日予定がぎっしりという日が続いています。いまのところ体調も万全で、120%毎日を使い尽くしているのではと思っています。

イタリア語は学生時代に未習得だったので、この短い期間でどれだけ理解出来るようになるかなあと不安でしたが、語学学校で素晴らしい先生に巡り合ってかなりハードなレッスンを受け、レッスン五日目にして次第にリスニング&スピーキングが少し出来るようになってきました。(初心者です、と言って入ったのに、当然のようにイタリア語で授業が展開され、基本的な単語の使い回しや動詞の活用を知っている前提で話が進むのには驚きました。でも、学生時代にフランス語を学んだときもそんな感じでしたし、この無茶ぶりを楽しみながら必死についていこうと奮闘しています。)

個人的には、イタリア語というのは関西人のテンションと合うのではないかと思っていて、テンションを切らさなければ非常にやりやすい言語だと感じています。フランス語とドイツ語とブラジルポルトガル語をやっていたことも良いように作用し、思考のなかで日本語を介さずにヨーロッパ系言語(正確にはラテン系と限定すべきかもしれませんが)のヴァリエーションで考えていくと、随分と理解しやすいという印象です。「英語とヨーロッパ系言語が一つできると、世界は無限に広がって行く」と話していた、大学時代の恩師のひとり、ヴァッセルマン先生のことを思い出しました。言いたいのに知らない単語があると、同じ意味のフランス語をイタリア語読みして無理矢理伝えようと試みるのですが、実際のイタリア語でも結構近いことが多く、それなりに伝わることがあって面白いです(笑)

語学学校の先生は私が指揮者であることを知っているので、しばしば音楽の話を混ぜて来てくれます。引用してくださる文がたとえば「トスカ」の一節だったりしてニヤリとします。また、クラウディオ・アバドの葬儀の際、ボローニャがどんな様子だったかをそこにいた方から聴くことができたのは感動的でした。そうそう、なんの話のときだったか、「ティツィアーノを知ってる?」と言われて、「もちろん!フローラがとても美しくて…」と話そうとしたら、「あ、画家ではなくて音楽の…」と笑われて困惑したのですが、イタリア・ポップスの超有名歌手にテッツィアーノ・フェッロ(通称「イタリアのディカプリオ」!)という方がいらっしゃるようで、代表曲のPerdonoを聞かせて頂いたりもしました。この調子で多方面からビシバシ鍛えて頂きます。

 

続いて、ボローニャという街について。これはある冊子に原稿を執筆することになっていますので、ここで詳細に書くことを控えますが、一言でいえば、とっても居心地がいい街です。日本人にはあまり遭遇することがありませんが、寂しさを感じないほど街の人たちがフレンドリーで、仲良くなった仕立て屋さんのご主人とはたまに食事を一緒するぐらいになりました。食事をしながらロロ・ピアーナの生地の話をするあたり、この人は本当に服に情熱を燃やしているのだと感嘆させられます。そこであまりにも美しいシャツがあったので、一枚買わせて頂いたのですが、そのときに「このシャツはうちの誇りなんだ」と言っていた姿が耳に焼き付いています。似たようなことを、宿泊先近くのリストランテのご主人も食事とワインの組み合わせについておっしゃっていました。そんなふうに「誇り」という言葉を用いて自らのプロダクトを表現することができるような、そういう職人気質の人たちがこの街には沢山いるように感じています。

さすが美食の街として知られるだけはあり、どのお店に入ってもかなり美味しいお料理を頂くことができるため、食べ歩きには尽きない街ですが、毎日そんなことをしていると大変なことになってしまうので(笑)外食は相手がいるときだけにして、あとは宿泊先近くにあるCOOPを活用して半自炊にしています。生協オリジナルのASSIEMEという5ユーロぐらいのリーズナブルなワインがあるのですが、これをグラスと一緒にボトルで冷蔵庫に冷やしておき、つまみを作りながら飲むのが日課となっています。オリーブオイルと塩とトマト缶さえ買っておけば何とでもなりますね。こちらでは何故かスモークサーモンが高くて、白ワインとの組み合わせとして無性に食べたくなったときに、これを買うべきか・自重するべきかで悩んでいる時間が結構楽しかったりもします。

ちなみに、COOPは21時には閉まってしまうのですが、イタリアは20時ぐらいまで外が昼間並に明るいため、部屋で集中して勉強していると時間感覚が全く分からなくなって、気付くとお店が閉まっているという憂き目にあうこと度々です。日本にいると当たり前のように思えている時間感覚や太陽の沈み方が全く違う事を感じ、ああ、自分はいま日本から遠く離れた場所にいるのだなあと思わされます。そんなわけで、今日も充実した一日でした。次は歌劇場での話を書く予定です。恒例のASSIEMEでひとり乾杯しつつ、A domani!(また明日!)

 

 

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