灘校土曜講座2016 -終わりなき「冒険」をめぐって-

三年目となる灘校土曜講座、好評のうちに終了致しました。今年度は前半に芸術論と組織論、後半に「展覧会の絵」を用いた指揮レッスンを行いました。前半では、まずジャコメッティの「冒険」について話すところからはじめ、出口のない不可能の領域のなかを真っ直ぐ突き進むことを、言い換えれば「答えのない問い」に立ち向かうことの意味を伝えたつもりです。

後半は受講者を10人に絞り、実践的な指揮のレッスンを。この数年間、灘校で指揮「法」を教えさせて頂き、たとえば合唱コンクールで指揮台に立つ学生さんの指揮は、非常に明快なものになったと思います。ですが指揮において一番大切(であろう)ことは、型に拠りつつ型を出でること。型のために型を用いるのではなく、音楽のために型を用いること。自分が何を表現したいのか、何をwantするのか、というそれが根源であり、指揮「法」というのは、あくまでその表現方法の一つにすぎません。たとえば、空間と時間をどう結びつけるか。その一音にどのような詩を宿らせるか。そういうことを、少しでも伝えてみたかった。

今の私がそれを十分に出来ているとはまだ思えないけれども、それが大切であることを教わったのは、村方師匠から受けた「展覧会の絵」のレッスンにおいてでした。最初のプロムナードを振った瞬間、一喝されたのをよく覚えています。「綺麗なだけで何にもない!」と。そのあとに振ってみせて下さったときの空間の変わりよう、一生忘れないでしょう。あの感動と衝撃を僅かなりでも伝えたくて今回この曲を選んだのだけれども、受講後のアンケートの感想に、「全身が震えました」と書いて下さっている生徒さんがいて、大変に嬉しい思いをしました。

振り返ってみれば、展覧会を教わったあの日からもう5年が経ちました。私も変わって行くことを恐れず、ここで毎年新しい話ができるように、毎年オモシロいと思ってもらえるように、次の一年も頑張ろうと思います。

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