長い間注力していた仕事の一つが終わりました。パリのマラルメの「火曜会」にインスパイアされた東京大学『学藝饗宴』ゼミのフィナーレのディレクション&オーガナイズ。かねてから計画していたウィーン的な「本物」のサロンでの演奏+鼎談。文化庁長官・学術振興会理事長・文部科学大臣補佐官という豪華な鼎談者の先生方、そしてウィーンから帰国してくれた盟友のフルーティスト・北畠奈緒さんとピアニスト・吉岡由衣さん!
当日のプログラムは、
「サロン文化へのオマージュ―パリとウィーンのサロンの出会い」をテーマに、
薮田 翔一 (Shoichi Yabuta):湖上(中原中也の詩による)
モーツァルト:ロンド ニ長調
フォーレ:シシリエンヌ
エネスク:カンタービレとプレスト
(アンコール)バッハ:バディネリ
と組ませて頂きました。ウィーンとパリを横断し、フォーレに師事したエネスクで終わる面白さ。時間や環境など様々な制限があるなかで、無数に関係性の糸が宿るよう自由に考え、「これだ!!」という一点に至る楽しみ。私にとっては、今日の演奏良かったよと言ってもらえるのと同じぐらい、今日のプログラムは美しかったと言ってもらえることが嬉しいものです。ましてや、自分が感じるその「美しさ」を演奏者に深く共感頂き、魅力を120パーセント引き出して頂いた時の喜びは筆舌に尽くし難いものがあります。
素晴らしい演奏と音楽。刺激的な鼎談を聞きながら、過ぎた時間を振り返りました。鈴木寛先生のもとでこのゼミの構想をしはじめてから一年弱。学術と芸術を同時にやる、というこの壮大で個性的なゼミを運営していくのは簡単なことではなく、苦労も少なくはありませんでしたが、学生たちが活発に質問し、発表するさまを聞いていると、満ち足りた気分になります。
この半年で何を学んだか、というプレゼンテーションにおいては、学生たちが一人一人プレゼンテーションしてくれました。フルートで変奏曲を吹く学生あり、水彩画を描きながらそれに自身の人生を重ね合わせて語る学生あり、即興の漫才で表現する学生あり……と一人として同じスタイルはなく、そのことが涙が出るほど嬉しかったのです。
なぜならば、その場のルールや常識を転覆させ、はみ出すことを楽しむ勇気。見えないものを見つめ続け、自らの賭けたい表現や伝達手段の可能性を信じること。僕がこのゼミを通じて伝えたかったことは、まさにそういうものだったからです。
それは自分が学生時代に師と仰いだ先生方、たとえば立花隆先生や村方千之先生に教えて頂いた「哲学」でありました。すべて終わってみたいま、学生時代の自分に、「これは関わっておいたほうがいいよ」と自信を持って薦めることができます。関わって下さったみなさま、本当にありがとうございました。