学生指揮者の系譜 -第69回 北陸三県大学学生交歓芸術祭にて

北陸大学学生芸術交歓祭で福井大学フィルの勇姿を拝聴。通称「芸歓」は、北陸三県の大学オーケストラが集まって演奏するイベントで、毎年各県の持ち回りで開催されています。今年は福井が会場となりました。

この芸歓では各大学の学生指揮者さんが自分たちの定期演奏会の曲を抜粋で指揮したり、三県合同の大オーケストラを指揮したりします。つまり私の仕事はないのですが、いわば教え子の晴れ舞台を見るような心地で、万難を排して毎年聴きに行っています。

同時に、自分が指導しているオーケストラの状態を客観的に見ることができる機会でもあるため、大いに自分の勉強にもなっているのです。学生さん一人一人の課題を発見することもできますし、その状態から定期演奏会までのリハーサル・プランを練ることもできる。12月の本番のクオリティのためにも欠かせない機会だと思って、個人的に5年間通い続けてきました。

今回、福井大学フィルからは、現学生指揮者さんと次期学生指揮者さんの2人が指揮台に立ちました。サウンド・オブ・ミュージックは堂々として大きな指揮に明瞭なテンポ変化でしたし、チャイコフスキー5番は音色の表現と曲の立体的把握が素晴らしかった。序奏には息を飲むぐらいの緊張感と絶望が、オーケストラに独特の「音色」が宿っていました。愛弟子の成長に圧倒され、思わず涙しました。

客観的に福井大学フィルの学生指揮者さんを見て思うのは、指揮の基礎技術がきっちりしているということ。もちろん基礎だけでは不十分ですが、基礎はとっても大切なことです。芸事における至言である「守・破・離」のとおり、「守」がなければ「破」には至れないのです。贔屓目抜きに大変にクリアな指揮でした。(そして付け加えるならば、いつも以上に夢中になって振っているその後ろ姿に、「破」へと繋がる気配が確かに見えました。理性の枠を越え出でて、全てを忘れて本能のままに自分を表現できたとき。その瞬間に指揮は大きく成長する。私の初ステージ後に亡き師がそう教えてくれたことを思い出しました。今考えてみれば、それこそが指揮者にとっての「音を楽しむ」ということかもしれません。)

これは今年だけのことではなく、これまでの歴代学生指揮者さんの積み重ねに他なりません。ときに先輩後輩や同期同士で教え合ったり、リハーサルが終わっても質問に来て食らいついてきてくれたり、そういう日々が重なって今日に至ったのだと思います。今日二人が指揮している姿を見て、これまで教えた学生指揮者さんたちの指揮姿が蘇ってきました。確実に引き継がれ、蓄積が成されていっている。そのことを心から誇りに思います。

それにしても芸歓はやっぱり、とってもいいイベントですね。各大学で交流し、共に演奏し、良いところに触発され、互いに刺激を受けあっている姿は見ていて心地よいものです。とくに最後の三県合同演奏は、皆さんが音楽を心から楽しんでいる様子が伝わってきてワクワクしました。

溢れんばかりにステージに広がった奏者が好き放題弾きまくる「軽騎兵」序曲と「ジュラシックパーク」の楽しいこと!隣のプルトの人と一緒に笑顔になって顔を見合わせながら弾いている姿に、立ち上がらんばかりの勢いで動いてノリノリで弾く姿に、「こうでなくっちゃ!」と膝を打つ思いがしました。音楽は、いいですね。

演奏もですが運営や準備は相当に大変だったことと思います。関係者の皆さまに心からの拍手を送ります。音楽にあふれた素敵な秋の一日をありがとう。

福井大学フィル学生指揮者、愛弟子の岡崎陽香さんと。チャイコフスキー五番、よく頑張った!
福井大学フィル学生指揮者で私の愛弟子の岡崎陽香さんと。チャイコフスキー5番と「軽騎兵」序曲の指揮、よく頑張った!(ご本人の許可を頂き写真掲載しています。)

 

 

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