三年目の挑戦、伝統と革新のあいだで -福井大学フィル第65回定期演奏会に寄せて-

福井大学フィルの第65回定期演奏会パンフレットに寄稿した文章を転載させて頂きます。

三年目の挑戦、伝統と革新のあいだで

 福井大学フィルを指揮させて頂くのも今年で三年目となりました。三年にわたり指揮させて頂き、この地を年に十回ほど訪れさせて頂いているうちに、沢山の出会いに恵まれました。お世話になっている割烹料理屋さんの大将から、「おっ、今年もおかえり!」と言って頂いたり、街で擦れ違った方に「今年の演奏会はいつ?」と声をかけて頂いたり……。その度ごとに、ああ、福井に来ることが出来て良かったなあと幸せになり、つい日本酒を飲み過ぎてしまう日々を過ごしています。

 私にとって福井はもはや第二の故郷であり、福井大学フィルもまた、そういう存在になりました。だからこそ、これまで福井大学フィルが築き上げて来た伝統を大切にしながら、もっともっとこのオーケストラを地域に根付いたものとし、年に一度の演奏会をみなさまに楽しみにして頂けるように工夫したいと思って、様々な新しいことに取り組んで参りました。もちろん、これは私ひとりで出来ることではなく、その時々の代の団長をはじめとする学生さんたちが共感し、頑張って下さったからであり、学生さんたちとそういうふうに「協同」できたことは大変嬉しいことでありました。

 演奏プログラムの幅を広げていくことにも拘ってきました。大学オーケストラというのは、選曲にあたって非常に難しい条件があるゆえに、新しい曲に挑戦していくことが決して容易ではない環境にあります。とはいえ、闇雲に珍しい曲や新しい曲をやればいいというわけではありません。伝統には伝統になるだけの理由があり、王道には王道ならではの良さがあります。ですから大切なのは、レパートリーを広げてチャレンジングな曲やオーソドックスな曲を取り混ぜていきつつ、強い一貫性やメッセージ性のあるプログラムを作っていくことだと思っています。福井大学フィルのプログラムはいつも面白いぞ、と全国から注目されるようにありたいものです。

 さて、今回の演奏会の曲目は、どれも福井大学フィルにとって「新しい」ものです。1956年の第1回定期演奏会以来、今回が第65回目の定期演奏会になるわけですが、福井大学フィルのこの65年の歴史において、今回演奏する三曲はどれも、一度も演奏されたことがないようです。

 

 まず、フランス人をして「忘れられた国民的作曲家」という形容のなされるサン=サーンスの「英雄行進曲」は、躍動するリズムと美しくはかない旋律の対比が見事な名曲であります。中間部のカンタータが行進曲の主題と見事に重ね合わされながら、華やかなクライマックスを迎えます。そのサン=サーンスの友人にして、稀代のフランス・オペラ作曲家として知られるのがジュール・マスネです。今回演奏する組曲『絵のような風景』は、自然に溢れた素朴な風景や、ミレーの傑作『晩鐘』が浮かび上がるような、イマジネーションを掻き立てる逸品となっています。

 そして最後に、サン=サーンスとジュール・マスネと同時代を生きたフィンランドの作曲家、ジャン・シベリウスの「交響曲第1番」です。多くの作曲家にとってそうであるように、シベリウスにとってもまた、「交響曲」というジャンルは特別なものであり、自身が編み出した最新の手法や実験的要素を交響曲というジャンルに注いできました。なかでも彼にとって最初の交響曲となるこの「第1番」では、今から振り返っても極めて現代的で斬新な書法に驚くほど、論理と感性が矛盾無く融合された、壮絶かつ壮大な音楽が展開されます。伝統的なフォルムのなかで音楽を構成しながらも、拍子の選択から調性の設計に至るまで、随所に両義的な要素を盛り込むことによって伝統のブレイクスルーを試みた作品なのです。

 この三人の作曲家は、リヒャルト・ワーグナーという作曲家の影響を強く受けている三人でもあります。ワーグナーの与えた影響に対して、世紀末を生きたこの三人の作曲家たちはどのように反応し、伝統と革新のあいだを揺れ動きながら自身の作品に結実させていったか。同時代の三人の作曲家たちが切り開いた独自の音楽世界に、その新鮮さに、そして福井大学フィルの新たな挑戦に、耳を澄まして頂ければと思います。

福井大学フィルハーモニー管弦楽団客演指揮者
木許裕介

三年目の挑戦、伝統と革新のあいだで-福井大学65回定期演奏会
三年目の挑戦、伝統と革新のあいだで-福井大学65回定期演奏会

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