練馬文化センターにて、初めてご一緒するオーケストラとブラームス&ベートーヴェンのリハーサル。序奏を詰めるだけであっという間に時間が経ってしまうほど、序奏にこの曲の命が詰まっているように思う。
ベートーヴェンの1番は特別な思い入れのある曲。師匠・村方千之先生のもとに弟子入りした学生時代、先生にこの第1交響曲を教わったときのことは今でもよく覚えている。いよいよベートーヴェンの交響曲を振ることができるのが嬉しくて、当時の自分としてはこれ以上無理なぐらいこの1番を勉強して、何度も何度もレッスンをして頂いた。先生がレッスンを終わりにしようとすると「先生もう一回やらせてください!」と食いついてレッスンを引き延ばそうとしていたりもした。(今考えると恐ろしいことをしていたものだ)
おそらく一ヶ月ぐらいこのシンフォニーに取り組んで、その最後には、暗譜で1楽章から4楽章まで指揮した。そのときに師匠が「なかなかいいじゃない。これぐらい真剣に他のシンフォニーも勉強する気はあるか?」とニヤリと笑いながら話してくださったことが、僕にひとつの決意をさせるに至ったのだった。先生がお元気なあいだにベートーヴェンの1番から9番までじっくりと教わりたい。今日このときのような感動を一つでも多く味わいたい。そのために先生の側にいられる限りいよう、と…。
そして僕の25歳の一年間は、87歳の師からベートーヴェンの偉大な交響曲を順に教わっていく一年間となった。どれほど自分がベートーヴェンの交響曲を勉強することに燃えていたかは、当時の自分の文章を読めばすぐにわかる。それは折しも、2012年の元旦に、2018年のことを考えながら書いた文章だった。
あけましておめでとうございます。
現在、一月一日の午前二時。ベートーヴェンの交響曲一番を勉強していたらいつの間にか日が変わっていました。
この曲は冒頭から「ええっ!」と驚くような和音ではじまり、調性が安定しないまま序奏を終え、Allegro con brioで
ようやく走り出します。そして走り出してからはモーツァルトの四十一番「ジュピター」の第一楽章が確かにその中に聞こえるのです。
伝統と革新を同居させ、「これからは俺の時代だ!」と意気込むような、若きベートーヴェンの野心が見える気がします。
新年一発目に勉強するのにこれ以上相応しい曲もないかもしれません。
勉強にキリがついたところで出して来たお酒がこのバランタイン30年。
色々な巡り会わせがあってこうして飲む機会を得たお酒なのですが、
今の僕には不釣り合いなぐらい上等な一本で、その余韻に思わずうっとりしてしまいました。
30年、ということは僕の年齢よりも六つも年上のお酒なわけです。
このお酒の年齢と同じになったころ、つまり2018年に僕はどうなっているのだろうか。
結婚してもしかしたら子供の一人でもいるのかもしれないな、などと考えながら、
大切に大切に、時間が深く刻まれたこの琥珀色の芸術を堪能するのでした。
ともあれ、乾杯!
2012年も実り多き良い年になりますように。
あのときには想像もつかなかった2018年。僕は30歳を超え、棒振りとしての人生を歩んでいる。人生は本当に不思議なものだ。
懐かしい練馬文化センターのリハーサル室。あの時よりちょっとは「音楽」できるようになっているといいなと、亡き師と過ごした時間を振り返らずにはいられなかった。