あけましておめでとうございます。2022年末は、まもなく出版される本の最後の仕上げをすべく、大量の資料に囲まれてひたすら執筆していました。年越しを迎えるときに開いていた楽譜はヴィラ=ロボスの「神秘的四重奏」でした。
昨年は関西フィル、神戸市室内合唱団、福井大学フィル、エル・システマ相馬、エル・システマ駒ヶ根、フランスの国際音楽祭など、世界各地で指揮し、イギリスでも仕事をして、年間約20本の講演会や講義をさせて頂き、TEDxUTokyoやNHKやフランスのニュース番組に出演しました。これまでの集大成として、ブラジル大使館と協力して「ブラジル独立200周年記念コンサート」の企画・主催・指揮に奔走し、ブラジルにリサーチのため長期滞在するなど、とても充実した一年となりました。コロナ禍においてもすべてのコンサートを実現することができて、しかも指揮したコンサートの多くが満席御礼となったことは言葉に変え難い幸せでした。
ライフワークとしている日本人作曲家作品の演奏も国内外でたくさん実現することが出来ました。芥川也寸志「トリプティーク」、信時潔「海道東征」、伊藤康英「ぐるりよざ」、小倉朗「オーケストラのためのブルレスク」、福田洋介「さくらのうた」などなど…。貴志康一のバレエ音楽「天の岩戸」の校訂版の作成も折り返しに差し掛かっています。また、ユースオーケストラの指導法として開発してきたオリジナルのメソッドを英文記事で世界的に紹介して頂いたことも嬉しかったです。
同時に、「ブラジリアン・クラシック・ミュージック」シリーズのCDブックレットをはじめ、リサーチを重ねて綴ったものが活字となって多数出版された一年でもありました。カマルゴ・グァルニエリやゲーハ=ペイシ、クラウジオ・サントロなど、ブラジルのクラシック音楽作品をいくつも日本に紹介させて頂きました。
振り返ってみれば、一年で地球一周をはるかに超える移動距離を旅し、その移動のあいだはひたすら譜読みと執筆に没頭していました。35歳の自分にできる限り走り回ることができたと思います。(あと、サウナにハマってサウナ・スパ・プロフェッショナルのディプロマを取得したりしました笑)様々な角度から支えてくださった方々に感謝するばかりです。
そしてこの一年、常にヴィラ=ロボス本のことが頭にありました。隙間時間が少しでも出来たらリサーチをしたくて、膨大な資料をスーツケースごと旅先のホテルに送って研究を重ねる日々でした。その成果はもう少しでお披露目できます。
2023年度はさらに充実しそうです。国内のプロオーケストラとは、3月に湘南鎌倉フィルハーモニック管弦楽団、7月に神戸市室内管弦楽団との共演が予定されています。また、音楽監督を務めているエルシステマジャパンでは、2022年度に引き続き、相馬(福島)の音楽祭、駒ヶ根(長野)の音楽祭を指揮いたします。海外でもいくつかの国で指揮することになりそうです。
アマチュアオーケストラとは、フェローオーケストラの3回の演奏会と、九州のChalcedony Symphony Orchestraを指揮します。大学オーケストラとは、福井大学と九州大学をはじめ、年内に4つの大学オーケストラから指揮のオファーを頂きました。1年に4大学を指揮するというのは中々ハードなのですが、求めて頂いたからにはいずれも全力で臨みます。コロナ禍において大学オーケストラの文化を途絶えさせないことは、音楽界全体の長期的な活性化のために極めて重要なことですから。
それから、まだ発表できませんが、大きなプロジェクトにいくつか関わります。諸芸術の連関や照応をいっそう示していきたい。我が国における文化政策や音楽教育にもっともっと貢献していきたい。そうした想いを形にする一年にしたいですね。
昨年末に改めて思ったこと。それはやはり、自分にしか出来ないであろうと思える仕事をすることが最大の喜びになるのだということです。どれだけ大変でも、どれほどの困難がそびえていても、これは自分にしか出来ないと思えることならば、その大変さはやりがいに変換されます。その内容が良いかどうかは他者や歴史の審判に委ねるほかありませんが、その評価以上に、「君でなければならないのか」に確信を持てるかどうかが自分の実存には重要なのです。今年もそれをまっすぐ追い求めてゆきます。