東洋大学管弦楽団「第九」演奏会の実現に向けて

ご縁を頂き、ベートーヴェンの「第九」を指揮することになりました。オーケストラは東洋大学管弦楽団。聞けば、このオーケストラは四年に一回第九をやるのが伝統だったそう。しかしコロナによって、全国的に大学オケは活動自粛を余儀なくされ、学生たちは第九どころか普通の演奏会すら実現が困難な数年間を過ごさざるを得ませんでした。

ましてや大学=基本的に4年間在学=つまり「代替わり」が生じるという仕組みゆえ、四年前の第九演奏会に関わった現役団員はほぼ皆無。当時の引き継ぎを見ようもんにも、うまくアクセスできなかったり当時と状況が違ったり、そもそも現役学生たちはこの数年の自粛によって大きな演奏会の企画経験がなかったりで、企画が困難であろうことは予想していました。

大学オーケストラの危機を立て直すのが自分の使命と思ってこの数年間やってきたので、指揮の依頼をもらって快諾。「ところでソリストは?」と聞くと「まったく目処がありません」。「合唱団は…?」と聞くと、「コロナの数年で今まで一緒にやっていた合唱団は10人ぐらいになってしまったそうで、どうしていいかわかりません。」オケはオケで、オーボエもコントラバスも現役団員ゼロ!「そうなんです。伝統だからといってやることにしたものの…。」なんじゃそりゃー!!どうやって第九やるんやー!!これはとんでもないものを引き受けてしまったぞ…。というところからスタートしました。

団員のなかでも色々思うところがあったのでしょう。企画から降りたり、退団したり、運営体制が何回も変わりました。予想を遥かに超える状況にちょっとどうしようかと思ったこともありましたが、こういう無理難題に接すると逆に燃えてしまうものです。今にいたるまで学生たちと150通ぐらいのメールをやり取りし、二週間に一回夜中までのオンラインミーティングを開催し、友人の吉野良祐くんにもキャスティングでお手伝い頂いて素晴らしいソリストさんやピアニストさん、合唱指揮者さんのご紹介を頂きました。

最初、どこか他人事にも感じられた学生たちでしたが、叱咤激励に応えてくれて、いつしか自分たちがこの伝統を甦らせるのだという強い責任感を持って全力を注いでくれるようになりました。そして今や合唱団は100人集まり、チケットは約1000席申し込みがあるそうです。すでに感無量です。

プロオケでもなければ音大オケでもない。お聞き苦しいところもあるかもしれません。ですが私はこのコンサートに皆さんにぜひ来ていただきたい。コンサートは第九一曲だけの真っ向勝負。この曲が初演されたときのように、対向配置という難しい配置に挑戦してもらい、アルトではなくカウンターテナーにソロを歌って頂きます。ソリストさんたちはみな私より年下の若手ですが、これからの声楽界を背負っていくであろう素晴らしいホープばかりです。

2021年、コロナの真っ只中。わたしは東京芸術劇場でベートーヴェンの第五番「運命」を現代ではほぼ聞かれなくなった1930年代のスタイルで演奏しました。単純な勝利ではなく、苦難すら味方につけて一歩一歩踏み締めていく「運命」を作りたかったから。さあ、今回の「第九」はどうなるのか?!

なお、コロナになってから、一般大学による第九演奏会は、私が知る限り今回が三回目です。(学習院大学、北海道大学交響楽団に続く)ここまで来たら伝説の演奏会にしたい。皆様にどうかお運び頂き、この時間に静寂と拍手の演奏者として参加して頂きたく思います。全国各地の大学オーケストラの指導に関わったこの数年の集大成として、全身全霊で指揮します!

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