東京大学『学藝饗宴』ゼミナール 第二期

- 火曜日の夜、学術と芸術を求めんとする若者が駒場に集う - 昨年の春に鈴木寛先生と立ち上げた「学藝饗宴」ゼミナールの第二期がはじまります。第一期目となった昨年はマラルメの「火曜会」をイメージして、少人数でハイレベルな議論や体験を得ることを目指してきました。そして第二期目となる今年は、「ドン・キホーテ」にその姿を託しています。

このゼミナールでは、いままで頂いたご縁をフル活用してゲストの方々をお招きしています。私にとっては、長くお世話になった駒場への恩返しのような心地もしていて、学生時代に立花隆先生のもとで学ばせて頂いたことと、指揮者としてこれまでやってきたこととを総結集し、学生をもっと路頭に迷わせたいという思いで(?)やっています。

昨年のゲストとしては、宮田亮平氏(文化庁長官)、安西佑一郎氏(学術振興会理事長)、鷲田清一氏(哲学者)、江國香織氏(小説家)、甲野善紀氏(古武術研究家)、だりあ氏(緊縛パフォーマー)、薮田翔一氏(作曲家)、山本哲士氏(文化科学高等研究院ジェネラル・ディレクター)、清水博氏(東京大学名誉教授)……など。

せっかくなので、昨年度の春学期のスケジュールを公開してみましょう。


<各回授業の概要 目次>
4月11日 鈴木寛教授による初回授業とガイダンス(受講者選抜のための筆記テスト)
【音楽 -サロン文化へのオマージュ-】ドビュッシー作曲『牧神の午後への前奏曲』/プーランク作曲:『ナゼルの夜会』

4月17日 イントロダクション 木許裕介氏講義「花火師たちへ」
【音楽 -世紀末の花火-】ストラヴィンスキー:幻想曲「花火」/ドビュッシー:前奏曲集第二集より「花火」

第1楽章 国家と権力
4月25日 学生による読書会と討議「国家と権力をめぐって」
【音楽 -ドイツロマン主義と共同幻想-】ベートーヴェン:交響曲第六番「田園」/渡邊浦人:交響組曲「野人」

5月2日  文部科学省職員:筒井諒太郎氏講義「パブリックとは何か」
【音楽 -抵抗・アイロニー・引用-】ショスタコーヴィッチ:弦楽四重奏第八番

5月10日 文化科学高等研究院ジェネラルディレクター山本哲士氏によるフーコー国家論講義
【音楽 -祝祭と権力-】ヘンデル:「水上の音楽」/ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第一幕への前奏曲

第2楽章:生命と動き
5月17日 科学哲学研究者:大野元己氏による講義「生命とは何か」
【音楽 -静と動、反復による破壊と生成-】フレデリック・ジェフスキー:「トゥ・ジ・アース」(エヴェリン・グレニーによる演奏)/トム・ジョビン:Tide

5月25日 学生による読書会と討議(生命論)
【音楽 – 一音の揺らぎと秩序-】ジョン・ケージ:Number SeriesよりOne/サルバトーレ・シャリーノ:Variazioni for Cello & Orchestra

5月30日 ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験とディスカッション
6月6日  東大名誉教授:清水博氏による生命論講義
【音楽 – 音の揺らぎと自律性-】武満徹:ノヴェンバー・ステップス/波の盆

第3楽章:存在と他者
6月6日 仙台合宿準備(学生回)
6月9日-11日 仙台合宿
9日 仙台フィル第310回定期演奏会(指揮:下野竜也、オーボエ:セリーヌ・モワネ)
ロッシーニ:「アルジェのイタリア女」序曲/モーツァルト:オーボエ協奏曲/ドヴォルザーク:交響曲第6番

10日 京都市立芸術大学理事長・学長:鷲田清一氏による講義・対談、メディアテーク見学
11日 仙台散策(仙台絆祭りなど、自由行動)

6月13日 学生による討議「仙台の記憶」「存在と他者」をめぐって
【音楽 -存在の他者性-】ピアソラ:タンゴオペリータ「ブエノスアイレスのマリア」より「フーガと神秘」/ブラームス:交響曲第二番

第4楽章:身体と表現
6月19日 (希望者のみ)アルベルト・ジャコメッティ展 国立新美術館
6月20日 指揮者/慶應義塾大学SFC研究所上席所員:木許裕介氏による講義
【音楽 -創作の格闘、そして即興-】ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ四番より「前奏曲」/キース・ジャレット:ケルン・コンサート

6月27日 「身体と表現」スタッフによる「調性と身体」講義、学生ディスカッション
7月4日 現代音楽作曲家:薮田翔一氏による講義
【音楽 -日本人作曲家による協奏曲】貴志康一作曲:ヴァイオリン協奏曲/尾高尚忠作曲:フルート協奏曲/廣瀬量平作曲:チェロ協奏曲「悲(トリステ)」

7月9日 (希望者のみ)東京大学フィロムジカ交響楽団定期演奏会
ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩『ラ・ヴァルス』/エルガー:エニグマ変奏曲/ブラームス:交響曲第1番

7月11日 古武術研究家:甲野義紀氏による身体論講義
【音楽 -音楽と身体】カール・オルフ:「カルミナ・ブラーナ」(楽器群と魔術的な場面を伴って歌われる、独唱と合唱の為の世俗的歌曲)

7月18日 鼎談「学芸饗宴」 -宮田亮平文化庁長官、安西佑一郎学術振興会理事長、鈴木寛文部科学大臣補佐官-
【音楽 -ウィーンとパリ、サロン文化へのオマージュ-】薮田 翔一 (Shoichi Yabuta):湖上(中原中也の詩による)/モーツァルト:ロンド ニ長調/フォーレ:シシリエンヌ/エネスク:カンタービレとプレスト <演奏:北畠奈緒、吉岡由衣>

8月1日 まとめ・学生発表


毎回授業前には、その回の講義内容に響き合うような音楽を選び、簡単な解説とともにそれを聞いて頂いてから授業に入りました。そして駒場で、ダイアログ・イン・ザ・ダークで、せんだいメディアテークで、ウィーンの香りを感じる本物のサロンで、それぞれの分野で第一線を走る先生方と対談や議論をさせて頂きました。そこで私なりに通底させたコンセプトは、「見えないものを見る」ということであり、知性と感性のあいだを往復しながら、蜃気楼のように逃げ去って行くなにものかを肌で感じてほしいということでありました。それを受けた学生たちの最終発表は、フルートで変奏曲を吹く学生あり、水彩画を描きながらそれに自身の人生を重ね合わせて語る学生あり、即興の漫才で表現する学生あり……と一人として同じスタイルはなく、そのことが涙が出るほど嬉しかったのです。

学術と芸術を同時にやる、というこの壮大で個性的なゼミを作り上げていくのは簡単なことではなく、苦労も少なくはありませんでしたが、第一期を受講してくれた学生さんたちがその構想をよく理解してくれて、今や「第二期」へとうまく繋げてくれました。その場のルールや常識を転覆させ、はみ出すことを楽しむ勇気。見えないものを見つめ続け、自らの賭けたい表現や伝達手段の可能性を信じること。今期もまた、僕がこのゼミを通じて伝えたいことは、そういったことに尽きます。

そして「ドン・キホーテ」。読み返してみればそれは、境界線上の議論を驚くほど見事なユーモアに昇華したものであり、ある意味では、知性のひとつのあり方が描かれているように思うのです。今期のゲストには、私にとてつもない影響を与えて下さった、畏怖する「風車」、小林康夫先生に来て頂きます。風車に吹き飛ばされる勇気と無謀さを持った学生たちの応募を楽しみにしています。


参考

鈴木寛先生による、 MANABI MIRAI MEETINGにおける学藝饗宴紹介  / 五月祭教育フォーラム2017におけるパネルディスカッション

KOMADと「学藝饗宴」ゼミナール


 

 

 

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