さて、どうして指揮棒についての記事を書こうと思ったかというと、とっても面白い指揮棒を入手したからです。フランスの誇る弓職人Rolland Benoitによる二種類の作品。作り手曰く、日本でこの指揮棒を取り寄せたのは私が初めてで、それゆえに日本で使っているのは現在私だけのようです。さっそく神戸室内管弦楽団&神戸市混声合唱団さんとのリハーサルから実用してみました。
ほとんどオーダーメイドで、制作はMaestro Benoitに余裕ができれば、というこの名刀ならぬ名指揮棒。使っているのはジョン・ウィリアムズやベンジャミン・ザンダーなど。一年近く気長に待っているあいだに、先方からご連絡を頂いて、日本の指揮者として初めて入手できる運びとなりました。
写真のように二種類のグリップを選ぶことができるのですが、写真上のほうは、Palm Modelといって、手のひらをすっぽり握り込むようなグリップ。下のほうは、Two Finger Modelといって、親指と人差し指の二本でつまむようにして握ることを前提としたグリップです。持ち方は人それぞれですが、レジンで出来たこのグリップがとにかく素晴らしく、驚くほど手の中にフィットします。見た目はなんだかハリーポッターの杖みたいな持ち手なのですが、持ってみるとびっくりするほど軽いのです。そしてまさしく、弓職人として世界に名を轟かせるBenoitのノウハウが詰まったグリップとして、持った瞬間に手に吸いついてくる感覚を覚えます。これは他のどの棒でも味わったことのない感覚でした。
グリップとシャフトのバランスも、これまで使ってきた棒の感覚とは全く違うため、慣れるのにはやや時間がかかりそうですが、棒が指揮の新しい技術を導いてくれる、という直感を得られるようなものであり、一つの作品として極めて美しいものであることには間違いありません。これから要所要所で実践に投入してみたいと思っています。素晴らしい棒を作ってくださったMaestro Benoitに感謝します。