学生の皆さん、よくぞここまで成長してくれました。シュトラウスの名曲メドレー「芸術家のカドリーユ」に、ロッシーニの「グリエルモ・テル」序曲、そして埼大オケでは10年ぶりとなるラフマニノフの交響曲第2番。ロッシーニから早速Bravo!を頂きテンション最高潮。ラフマニノフ2番も本番にしか鳴らない音が響きました。特に三楽章、遂にあの弱音に届きましたね。アンコールはエルガーの「エニグマ変奏曲」より「ニムロッド」を、過ぎ去る一年・来たる一年への祈りをこめて演奏しました。
埼玉大学管弦楽団と一緒したのは2023年5月。ロッシーニのフルートとコールアングレのデュエット部分を指揮していると、以前にこのオーケストラと一緒したときのベートーヴェン「田園」を思い出さずにはいられませんでした。あれから一層成長した皆さんと一緒できて良かったなあ、としみじみしながら。
この曲は、イタリア留学中に叩き込んで頂いた曲の一つでもあり、イタリアで学んだ特別なボウイングで演奏を試みました。さらにこの曲の冒頭には難易度の高いチェロ5重奏がありますが、チェロトップの朗々たるソロをはじめ、チェロのみなさんが本当に素晴らしかったです。このメンバーでなければ出来なかったでしょうね。
ラフマニノフ2番は、わたしにとっても聳え立つ山のようなマスターピースです。メロディの美しさに意識を持っていかれそうになりますが、この曲はとにかく声部が複雑で展開も一筋縄では行かない。内声がどれだけ雄弁に絡むか、小節線や拍を超えてオーケストラ全体がどれだけウネり、Specialな和声でどれだけ音色を変化させられるか、ということを強く要求する作品で、取り上げるたびに、作品がオーケストラを試している、ということを痛切に感じずにはいられないのです。
ですが、埼玉大学管弦楽団はめいっぱい頑張ってくれました。この作品の持つ力に突き動かされるように、やればやるほど伸びてゆく様子には毎回驚かされました。インフルエンザが猛威をふるいはじめて、コンサート前日から多くの体調不良者が出て、急遽の代奏で本番に臨まなければならないパートも出てしまったにもかかわらず、全員で何とか乗り切ろうと万策を尽くす様子は、この団のチームワークの良さあってのことだったと思います。
一楽章冒頭での緊張感ある音とウネリ、二楽章のフーガとテンポ・チェンジが決まった瞬間、三楽章の本番ではじめて至った弱音、たどり着いた四楽章最後での爆発、そして会場に響いたBravo!は、学生たちにとって一生忘れ得ぬものになったと確信します。
わたしにとっては、これが年内最後の演奏会となりました。指揮台に立って、やはりここが自分の一番好きな場所だとしみじみ思いました。ここに立てば五感が泡立つのが分かります。見えないものが見えるのです。 サーフィンの感覚に近いエネルギーの応酬。鍼治療のような問題解決。限られた時間を最大限有効活用し、棒で、身体で、言葉で、共に音楽を生きる仲間たちと、今ここでしか成し得ない変化を生んでゆく。それを幸せと言わずして何と言いましょうか。
練習にくらべて本番はほんの一瞬で過ぎ去っていく。途方もなく儚い営みだけれども、その儚さゆえに、私たちはこの芸術に惹かれ続けるのかもしれません。埼玉大学管弦楽団のみんな、大成功おめでとう。今年を支えた幹部代のみんな、卒業するみんな、本当におめでとう。またいつの日か一緒しましょう。これからも団のさらなる発展を応援しています。