こぼれ落ちた時間

あけましておめでとうございます。元旦はさっそく、2月に初演する現代曲の譜読みをして過ごしています。特殊奏法もバリバリ、1小節ごとに拍子が変わる(17拍子とか13拍子も!)複雑な曲ですが、ひたすら向き合っていると作曲家の思考が見えてくるようで、とても楽しい。愛知県立芸術大学での初演にも関わらず、指揮者にわざわざ私を指名してくださったからには、作曲家の期待を上回るような演奏をして御礼にかえたいと思っています。

この曲は「こぼれ落ちた時間」という素敵なタイトルが付けられており、マラルメの出世作のような詩、Apparition「あわられ」の構造と内容にインスパイアされて書き上げられたものです。Apparitionはあのドビュッシーも曲をつけており、Neiger de blancs bouquets d’étoiles parfumées.(芳しい星の花束を雪と降らせて)という最終行を読み上げるたびに、その美しさに震える思いがするほど、個人的にも大好きな詩の一つです。この美しい最終行がどんなふうに音楽で表現されているか、さらにはこの詩全体の構造を規定しているであろう、― C’etait le jour beni de ton premier baiser. の一節(そして何よりも「―」の部分!)をどう音楽に刻み込んでいるか、楽しみは尽きません。

ちなみに、この曲のタイトルのフランス語訳を考えてほしい、と作曲家からご相談を頂いていたのですが、朝から一日考えていて、やはりLe Temps débordeがピッタリではないかという結論に落ち着きました。このdéborderというのは、運動と境界という問題に強く関係している言葉です。曲自体はまだ勉強し始めたばかりで詳しいことは言えませんが、読み進めていると、「音の影」というシャリーノ的な要素とともに、まさにこのdéborderというコンセプトが流れているように思えるのです。果たして気に入ってくれるかどうか…。

なお、déborder繋がりで書くと、実はポール・エリュアールに同名の詩集(Le Temps déborde)があります。この中のL’extase「恍惚」という詩が昔から大好きで、今回このフランス語タイトルに思いが至った時、久しぶりにこの詩を読みなおすことをしました。

Je suis devant ce paysage féminin
Comme un enfant devant le feu
Souriant vaguement et les larmes aux yeux
Devant ce paysage où tout remue en moi
Où des miroirs s’embuent où des miroirs s’éclairent
Reflétant deux corps nus saisons contre saisons

 

J’ai tant de raison de me perdre
Sur cette terre sans chemins et sous ce ciel sans horizon
Belle raison que j’ignorais hier
Et que je n’oublierai jamais
Belles clés des regards clés filles d’elles-mêmes
Devant ce paysage où la nature est mienne

 

Devant le feu le premier feu
Bonne raison maîtresse

 

Etoile identifiée
Et sur la terre et sous le ciel hors de mon coeur et dans mon coeur
Second bourgeon première feuille verte
Que la mer couvre de ses ailes
Et le soleil au bout de tout venant de nous

 

Je suis devant ce paysage féminin
Comme une branche dans le feu.

 

そうこうするうちに、いつのまにか初日が沈んでゆきました。元旦からこのような美しい詩と音楽を勉強できるのは幸せなことですね。それでは、2016年もどうぞよろしくお願い致します!