きんくら!Vol.2 -ディミトリー・セルヴォ《フルートと弦楽のためのパタピアーナ》日本初演 

鹿児島県錦江町で、フルーティスト・伊藤愛さんと一緒に企画しているクラシック・キャラバンプロジェクト「きんくら!」の第二回。昨年のフルートアンサンブルに続いて、今年は弦楽四重奏とフルートのコンサートを企画してみました。今ここでこの人たちと何を演奏すべきか。そのことを徹底的に考えるが、わたしにとって最大の楽しみの一つなのですが、そうしてメイン曲として考え至ったのはこの曲でした。

現代ブラジルの作曲家、Dimitri Cervoの「ブラジル2000」シリーズ第5番「フルートと弦楽のためのパタピアーナ」。このシリーズはヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ」にインスパイアされたもので、毎小節変わる拍子が癖になる楽しい曲です。作曲者のCervoから楽譜を提供いただき、伊藤愛のフルート/木許の指揮で、鹿児島県の南端、錦江町にて初演。あいにく台風が直撃することとなり実施できるのか危ぶまれましたが、満席のお客様で大盛況となりました。

今回の演奏会のために、本曲の解説を執筆しましたので、掲載しておきます。セルヴォ自身の解説を元に、私の視点もふくめて書き下ろしたものです。


ディミトリ・セルヴォ(1968- )

「ブラジル2000シリーズ」第5番《フルートと弦楽のためのパタピアーナ》 作品17

Dimitri Cervo, Série Brasil 2000 n. 5 – Pattapiana (2001) ― Flauta solo e Orquestra de Cordas Op.17

ディミトリ・セルヴォは、1995年にロンドリーナ音楽祭の管弦楽作品コンクールにおいて《序曲とトッカータ》で第1位を獲得して以来、現代ブラジルの音楽シーンで精力的に活躍するブラジルの作曲家/ピアニスト。《トロヌバ》、《カナウエ》、《トッカータ・アマゾニカ》などの作品を手がけ、彼の作品はブラジル国内外で広く演奏されている。

本曲「パタピアーナ」は、フルート奏者パタピオ・シウヴァに因む、フルートと弦楽アンサンブルのための作品。1997年から2007年にかけて展開された全9曲から成る「ブラジル2000」シリーズの第5作目にあたる。この「ブラジル2000」シリーズは、ブラジルの国民的作曲家ヴィラ=ロボス(1887-1959)のブラジル風バッハ(Bachianas Brasileiras)というシリーズにインスパイアされたものである。

ヴィラ=ロボスは全9曲の「ブラジル風バッハ」シリーズで、ブラジル音楽の要素とヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)の音楽の様式的特徴の融合を実現しようとした。先駆者たるヴィラ=ロボスのアイデアに基づき、セルヴォもまた「ブラジル2000」シリーズで、ブラジルの音楽とミニマリズムの様式的・美学的特徴を融合させようとしたのである。

セルヴォによれば、ブラジル音楽の形成要素は作曲家にとって無尽蔵の資源であり、ミニマリズムは20世紀後半の最も重要な美的運動のひとつであるという。セルヴォはこの両者の統合を通して、ヴィラ=ロボスが試みた民族的要素と普遍主義的要素の統合的昇華を追求し、包括的でありながら同時に著しく個人的な美学を作品に刻印しようとした。

《パタピアーナ》は極めて技巧的であり活力あるリズムに支えられた勢いのある主題で始まる。ほぼ毎小節変化する拍子に乗って提示されるフルートの主題は、息つく暇もない「超絶技巧」で、優れたフルーティストのみが演奏し得る高度なものである。それに続くゆったりとして瞑想的な部分では、«pacífico»(平穏に)という指示が付され、弦楽器の繊細な和音とフルートのノスタルジックな旋律が際立つようになっている。最後のセクションでは、この二つのセクションの主題・リズム・和声といった要素が重ね合わされ回帰する。

本曲は2001年に作曲され、ジェイムズ・シュトラウス、ヘルデル・テイシェイラ、エドゥアルド・モンテイロなどのソリストや、ホベルト・ドゥアルテ、リカルド・ロシャ、クラウジオ・リベイロ、アダ・ペレグなどの指揮者によって度々演奏されている。演奏時間は約10分。作曲家から特別に楽譜の提供を受け、我が国においては、今回の錦江町での演奏(2024年8月27日:於 ゲストハウスよろっで)が日本初演となる。

(解説執筆:木許裕介)

改めて、伊藤さん今回も大成功おめでとう。東京芸術劇場オーケストラ・アカデミー時代の縁がこうして続いていることが嬉しいです。これからも錦江町で一緒にたくさん企画しましょうね!

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