マスネ「絵のような風景」と「スペインの夜」

この数週間は、福井大学フィルの定期演奏会のメイン曲であるシベリウスの交響曲第一番に没頭していました。シベリウスについては書き始めれば際限がないので、また項を改めて書くとして、今日は中プロになっているマスネの組曲第四番『絵のような風景』について少しだけ書いてみようと思います。

1859年、17歳のときに46歳のワーグナーに出会い、感化されたマスネ。これまで私がマスネで演奏したことがある曲と言えば、第一に「タイスの瞑想曲」であり、彼のいくつかのオペラのアリアや序曲がほとんどでした。とくにカンボジアで「ウェルテル」のVa!を演奏したのは大変に思い出深く記憶に残っています。シンプルな構成のなかで甘い旋律を持ち、この時代としては(サン=サーンスに比較しても)複雑な和声を時折忍ばせてくる作曲家というのが私の印象でした。

さて、それではこの「絵のような風景」。マスネの曲のなかでは有名な部類に入ると思いますし、「絵のような」という日本語訳の響きがヒットするのか、彼が書いた幾つかの組曲のなかでも演奏機会が比較的多い曲でしょう。ですが、これをどう演奏すればいいかというと大変に難しい。マスネに教えを受けたGaston Carraudという作曲家によれば、「明晰さ、節度、きちんとした厳格さ、形式に適った動き。感覚の素朴さと率直さ。こうしたものがマスネの根本的な教えでありました。」とあるように、マスネのスコアから立上がるものは、たとえ凝った和音を忍ばせたとしても、その本質は「素朴な」何かであるように思えます。

この「絵のような風景」には、まさにこのマスネの素朴なエスプリとでも言うべきものが凝縮されていると感じるのです。ただ演奏しただけでは繰り返しの多い退屈極まりない演奏になってしまうが、過剰な味付けはしたくない。サン=サーンスの表現を引用するならば、「林檎の木から果実が成るような」あるがままの演奏をしたい。しかし、そこから風景が立ち上がり、詩と歌が流れ出さねばマスネの音楽にはならない。この絶妙なバランス感覚、完成像のシビアさ!

とくに2楽章のAir de balletは作り方が難しいのですが、ひとつのヒントになるのが、「絵のような風景」の作曲(1871)の翌年、Nuit d’Espagne(1872)において2楽章Air de balletの旋律にLouis Galletの詩をつけて歌われることになる、ということでしょう。Louis Galletはマスネやサン=サーンスと同時代の詩人・台本作者であり、マスネの「タイス」「ル・シッド」はいずれもこのLouis Galletの台本を元にしています。

ひとまずこの歌曲を抑えないわけにはいきません。まさにタイトル通りのスペインのセレナーデ。こんな歌詞がつけられています。

L’air est embaumé,
La nuit est sereine
Et mon âme est pleine
de pensers joyeux;
ô bien aimée,
Viens! ô bien aimée,
Voici l’instant de l’amour!
 
Dans les bois profonds,
où les fleurs s’endorment,
Où chantent les sources;
Vite enfuyons nous!
Vois, la lune est claire
et nous sourit dans le ciel…
 
Les yeux indiscrets ne sont plus à craindre.
Viens, ô bien aimée,
la nuit protège ton front rougissant!
La nuit est sereine, apaise mon cœur!
Viens! ô bien aimée,
La nuit est sereine, apaise mon cœur!…
c’est l’heure d’amour! c’est l’heure!
 
Dans le sombre azur,
Les blondes etoiles
Ecartent leurs voiles
pour te voir passer,
ô bien aimée!
Viens, ô bien aimée,
Voici l’instant de l’amour!
 
J’ai vu s’entr’ouvrir
ton rideau de gaze.
Tu m’entends, cruelle,
et tu ne viens pas!
Vois, la route est sombre
sous les rameaux enlacés!
 
Cueille en leur splendeur
Tes jeunes années,
Viens! car l’heure est brève,
Un jour effeuille les fleurs
du printemps!
La nuit est sereine, apaise mon cœur!
Viens! ô bien aimée,
La nuit est sereine, apaise mon cœur!…
c’est l’heure d’amour! c’est l’heure!

 

第一連を日本語にすると、こう始まります。

空気は香り立ち/夜は穏やかだ/そして僕の心は一杯なのだ/幸せな思いによって

おお恋人よ/おいでよ!おお恋人よ/ほら、愛の時間だ!

私が一番好きなのは、最終連の四行間です。

摘み取ろう/その輝きにあって/あなたの若い日々を
おいで!/時は短いのだから
一日で散ってしまうのさ/春という花たちは!

 

ぜひ「スペインの夜」の演奏も聞いてみて下さい。以下は伴奏ともに素晴らしい演奏だと思います。長くなりましたので、他の楽章についてはまた改めて書いていくことに致しましょう。

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