物語を紡ぐこと – 平野啓一郎さんとの対話 –

本日の東大「学藝饗宴」ゼミは、大好きな作家・平野啓一郎さんをゲストにお招きして対談と対話。ご新刊『ある男』を切り口に、比喩の力、愛と恋の関係、他人の生を生きることについて、などからスタート!

「小説家は正直でなくてはいけない」という言葉、そして「小説は人を遠いところに連れて行ってくれる」「いわくいいがたいものを覗き込ませてくれる」という言葉が印象に残っています。懇親会でぽろりと呟かれた、小説を書くときの音楽的・絵画的思考についても…。実は平野啓一郎さんは、私が大学生時代に作った『二十歳の君へ』でもインタビューをお受け頂いていて、それ以来平野さんは、私にとって尊敬してやまない物語の紡ぎ手でありました。そしてこの「学藝饗宴」ゼミナールはまさに、「いわくいいがたいもの」をいいがたいもののままに味わうことを大切にしようという考えから立ち上げられたものであったので、平野さんのお話には一層深く共感した次第です。

学生たちとの質疑応答の前にしばらく平野さんと二人で対談させて頂いたのですが、平野さんのお話を伺ううちに、小説家になりたかった幼年時代を思い出しました。ざっくりといえば、私は「今ここ」と違う世界を物語ることが好きだったのだろうなと思います。そしていま、ペンではなく指揮棒を選んだとはいえ、物語ることを職業に選んだことには変わりがなく、聞いてくださる人をもっともっと遠いところにお連れできるように腕を磨かねばなりません。(そういえば、先学期の最終ゲストで来てくださった私の師・小林康夫先生もまた、身体的・知的に「もっと遠いところへ」出かけていくことの大切さを説いていらっしゃいました。そして、哲学はそういうふうな身振りで在らねばならないとも。)

音楽の苦しみと喜びを教えてくださった一冊は、平野さんの『マチネの終わりに』。ヴィラ=ロボスの「ブラジル民謡組曲」ガヴォット=ショーロスが出てきたときにはびっくりしましたね。愛してやまないこの一冊にサインまで頂いてしまいありがとうございました。物語を紡ぐということはどういうことか、小説家と指揮者の立場からたくさんのお話をさせて頂き、掛け替えない時間となりました。

 

対談の様子
平野啓一郎さん×木許

 

 

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